AI(人工知能)の歴史|時系列で簡単解説
2024年03月22日

目次
スマートフォンの音声アシスタント、自動運転車、囲碁で人間に勝利したAlphaGoなど、人工知能(AI)は私たちの生活に急速に浸透しつつあります。AIの活用はビジネスの世界でも広がりを見せ、今や社会に欠かせない存在となりつつあります。
しかし、AIがどのようにして生まれ、発展してきたのかをご存じない方も多いのではないでしょうか。AIは一朝一夕にできあがったものではなく、長い歴史の中で、多くの研究者たちの努力によって進化を遂げてきました。
ここでは、そんなAIの歴史を時系列に沿ってわかりやすく解説します。AIがどこから来て、どこへ向かおうとしているのか。その全体像を俯瞰することで、AIについての理解を深めていきましょう。
AI(人工知能)とは
そもそもAI(人工知能)とは何なのでしょうか。AI(Artificial Intelligence)は、人間のような知的な振る舞いをコンピュータ上で実現しようとする技術・研究分野のことを指します。
人間の知的活動を支えているのは、論理的に考える力や、経験から学習する力、新しいアイデアを生み出す力などです。AIはこれらの知的能力をコンピュータで実現することを目的としています。つまり、人間のように考えたり、経験から学習したりできるコンピュータシステムの開発を目指しているのです。
AIの範囲は非常に広く、自然言語処理、知識表現、推論、機械学習、ロボティクスなど、さまざまな研究領域を含んでいます。また、AI技術は次のように分類できます。
- 汎用AI(AGI: Artificial General Intelligence)
人間のようにあらゆる知的タスクをこなせるAI。まだ実現には至っていません。 - 特化型AI(狭義のAI)
特定の用途に特化したAI。現在、私たちが利用しているAIの大半はこのタイプです。
現時点では、特化型AIの開発と実用化が主に進んでいる状況だと言えるでしょう。
それでは、AIがどのように誕生し、発展してきたのかを見ていきましょう。
AI(人工知能)の歴史を年表で簡単に紹介
AIの歴史は、大きく分けて3つのブームがあります。
1. 第1次AIブーム(1950年代~1960年代)
2. 第2次AIブーム(1980年代)
3. 第3次AIブーム(1990年代~現在)
それでは、AIの歴史を時系列に沿ってみていきましょう。
AIの歴史を時系列でわかりやすく解説
1950年-1960年:AIの出現
1950年:AI(人工知能)の概念が誕生
AIの歴史は、1950年にアラン・チューリングが発表した「計算機械と知能」という論文から始まります。チューリングは、機械が知的な振る舞いをするための条件について考察し、「チューリング・テスト」という概念を提唱しました。これは、機械が人間と区別がつかないほど知的な会話ができれば、その機械は知性を持っていると見なすというものです。この論文は、AIの概念が生まれるきっかけとなりました。
1956年頃:「人工知能」という言葉が生まれる
1956年、ダートマス会議で「人工知能」という言葉が初めて使われました。この会議は、コンピュータに知的な振る舞いをさせるための研究を議論する場として開催されました。会議には、ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキー、ナサニエル・ロチェスターなどの著名な研究者が参加し、AIの基礎となる様々なアイデアが提案されました。この会議を機に、AI研究が本格的にスタートしたと言えるでしょう。
1960年-1974年:第1次AI(人工知能)ブーム~推論と探索~
1960年代:第1次AIブーム勃興
1960年代に入ると、記号処理の研究が盛んになり、第1次AIブームが起こりました。記号処理とは、記号をルールに従って処理することで、推論や問題解決を行う手法です。この時期の研究では、論理や探索などのアルゴリズムが開発されました。例えば、1964年にジョセフ・ワイゼンバウムが開発した「イライザ」は、パターンマッチングを使って人間との対話を行うプログラムでした。また、1969年にはスタンフォード大学のニルス・ニルソンらが「STRIPS」と呼ばれるプランニングシステムを開発し、ロボットの行動計画の自動生成に成功しました。
1966年:Siriの起源となったAI・人工知能「イライザ(ELIZA)」が開発される
1966年、MITのジョセフ・ワイゼンバウムが「イライザ」というプログラムを開発しました。イライザは、パターンマッチングと単純な文法ルールを使って、あたかも人間のように対話を行うことができました。ユーザーの入力文に含まれるキーワードを認識し、それに対する適切な応答文を生成するという仕組みです。例えば、ユーザーが「I feel sad(悲しい気分です)」と入力すると、イライザは「Why do you feel sad?(どうして悲しいのですか?)」と質問を返します。イライザは、現在の音声アシスタント(Siriなど)の原型となったプログラムと言えるでしょう。
1974年-1980年:冬の時代
1970年代半ば、AIブームは冷め、「冬の時代」を迎えます。この時期、AIの限界が指摘され、研究に対する投資が減少しました。特に、1973年にイギリスの哲学者ジェームス・ライトヒルが発表した「ライトヒルレポート」は、AIの実用化に否定的な見解を示し、イギリス政府のAI研究への支援を減少させました。また、1970年代後半には、「フレーム問題」と呼ばれる問題が注目されました。これは、AIシステムが現実世界の状況を適切に理解し、柔軟に対応することが難しいという問題です。こうした課題への対応が難航し、AIへの期待が冷め込んだのです。
1980年-1987年:第2次AIブーム(知識を蓄積したエキスパートシステム)
1980年-1987年:多数のエキスパートシステムが実現
1980年代に入ると、知識ベースシステムの研究が盛んになり、第2次AIブームが到来しました。知識ベースシステムとは、専門家の知識をルールや事例の形で蓄積し、それを使って問題解決を行うシステムです。特に、特定の分野に特化した「エキスパートシステム」が注目を集めました。1980年代前半には、医療診断や設計支援など、様々な分野でエキスパートシステムが開発されました。代表的な例としては、1982年に開発された「XCON」が挙げられます。XCONは、DEC社のVAXシリーズのコンピュータシステムの構成を自動的に設計するエキスパートシステムで、人間の専門家と同等の性能を発揮しました。
1984年:注目を集めたプロジェクト・アルゴリズム
1984年、「サイクロプス」というプロジェクトが始まりました。サイクロプスは、常識的な知識を大規模に蓄積することを目的としたデータベースの構築プロジェクトです。日常生活で使われる単語の意味や、物事の性質、因果関係などを、コンピュータで処理可能な形式で記述することを目指しました。こうした常識知識は、自然言語処理や質問応答システムに不可欠な要素です。サイクロプスは、現在の知識グラフの先駆けと言えるでしょう。1980年代半ばには、サイクロプスのデータベースには、10万件以上の知識が蓄積されていました。
1986年:誤差逆伝播法が発表される
1986年、ジェフリー・ヒントン、デービッド・ルーメルハート、ロナルド・ウィリアムズによって、「誤差逆伝播法」が発表されました。これは、ニューラルネットワークの学習を効率的に行うための画期的な手法です。ニューラルネットワークは、人間の脳神経回路を模倣したモデルで、複数の層を持つネットワーク構造をしています。誤差逆伝播法は、ネットワークの出力と正解との誤差を、出力層から入力層に向かって逆方向に伝播させ、各層の重みを調整するアルゴリズムです。この手法によって、多層ニューラルネットワークの学習が可能になり、現在のディープラーニングの基礎が築かれました。
1987年-1993年:冬の時代(知識獲得のボトルネック)
1980年代後半から1990年代初頭にかけて、再び「冬の時代」を迎えました。この時期、エキスパートシステムの限界が明らかになり、知識獲得の難しさが問題となったのです。エキスパートシステムは、専門家の知識を手作業で入力する必要があるため、知識の獲得と保守に膨大な時間とコストがかかります。また、獲得した知識の一貫性を保つことも難しく、システムの規模が大きくなるほど、知識ベースの管理は複雑になります。こうした「知識獲得のボトルネック」が、エキスパートシステムの実用化を妨げる大きな障壁となったのです。さらに、1980年代後半には、日本の第5世代コンピュータプロジェクトが失敗に終わり、AIへの期待が冷め込む一因となりました。
1993年-2022年:第3次AIブーム(機械学習とディープラーニング)
1990年代に入ると、機械学習の研究が大きな進展を見せ、第3次AIブームが始まりました。機械学習とは、データから自動的にルールや知識を獲得する技術です。この時期、統計的手法を用いたデータ駆動型のアプローチが主流になり、ニューラルネットワークや決定木、サポートベクターマシンなどの手法が次々と開発されました。1997年には、IBMの「ディープ・ブルー」というコンピュータ将棋システムが、当時の世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフに勝利しました。これは、AIが人間を超える能力を持つことを示す象徴的な出来事として、大きな注目を集めました。
技術革新①:機械学習の実用化
2000年代に入ると、機械学習の実用化が急速に進みました。特に、サポートベクターマシン(SVM)やアダブースト、ランダムフォレストなどの手法が、画像認識や自然言語処理、バイオインフォマティクスなど、様々な分野で成果を上げました。例えば、2001年には、顔認識システムの精度が人間の能力を上回ったことが報告されています。また、2006年には、ジェフリー・ヒントンらが「ディープラーニング」と呼ばれる技術を提案し、ニューラルネットワークの多層化と大規模化が進みました。
技術革新②:ビッグデータの登場
2010年代に入ると、ビッグデータの利活用が加速しました。インターネットの普及やセンサー技術の発達により、大量のデータが生成・収集されるようになったのです。こうしたビッグデータを活用することで、機械学習の精度が飛躍的に向上しました。例えば、2011年には、Googleが16,000個のコンピュータを使って10億枚の画像を学習させ、猫の画像を高精度で認識することに成功しています。また、2012年には、Kaggleと呼ばれる機械学習コンペティションのプラットフォームが誕生し、世界中の機械学習エンジニアがしのぎを削る場となりました。
技術革新③:ディープラーニングの台頭
2012年、トロント大学のジェフリー・ヒントンらのチームが、ImageNetと呼ばれる大規模な画像認識コンテストで優勝し、ディープラーニングの有効性が実証されました。ディープラーニングは、多層のニューラルネットワークを使った機械学習の手法で、画像や音声、自然言語など、様々な種類のデータを高精度で処理できることが明らかになったのです。2015年には、Googleの「AlphaGo」が、世界最強の囲碁棋士を破り、ディープラーニングの能力が一般にも知られるようになりました。さらに、2018年には、Googleの「BERT」と呼ばれる自然言語処理モデルが登場し、機械による文章の理解や生成の精度が大幅に向上しました。
まとめ
AIの発展に伴い、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念が注目されています。シンギュラリティとは、AIが人間の知性を超えるときのことを指します。2045年頃にシンギュラリティが起こるという予測もあり、「2045年問題」として議論されています。
AIがもたらす影響については、倫理的な問題も指摘されています。私たちは、AIと共生していくための方策を考えていく必要があるでしょう。
以上が、AIの歴史をざっと振り返った内容になります。AIは日進月歩で進化し続けており、これからも目が離せない分野であることは間違いありません。今後のAIの発展に、ぜひ注目していきましょう。